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神戸地方裁判所尼崎支部 昭和39年(ワ)453号 判決 1967年11月24日

主文

一、原告が特許第二五二〇一九号墜道管押抜工法につき、昭和三四年三月二八日付通常実施権設定契約に基き全国区において通常実施権を有することを確認する。

二、被告は原告に対し、前項の特許権につき、地域日本全国とする前項の実施権設定契約に基く通常実施権設定登録手続をせよ。

三、訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一、当事者双方の申立

(原告)

一、第一次請求 主文同旨の判決。

二、予備的請求

(一) 原告が特許第二五二〇一九号特許権につき、その発明にかかる墜道管押抜工法を内容とする先使用による通常実施権を有することを確認する。

(二) 訴訟費用は被告の負担とする。

との判決。

(被告)

第一次請求並に予備的請求に対し、いずれも

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

との判決。

第二、当事者双方の主張

(原告)

(請求原因)

一、(被告の特許権)

被告は特許第二五二〇一九号に係る墜道管押抜工法(別紙目録(一)記載のとおり)の特許権(以下本件特許発明という)を有する(出願昭和三一年六月三〇日〓公告昭和三三年六月二一日〓登録昭和三四年五月一四日)。

二、(許諾による原告の通常実施権)

(一) 原告及び被告が代表者である訴外南野建設株式会社は共に土木建築業者であり、競業関係にあるところ、被告は本件発明の特許出願手続中である昭和三四年三月二八日原告との間に、本件発明が特許になつたときは本件特許発明を無償で原告に許諾する旨を約し、本件特許発明についての停止条件付実施設定契約を締結した。そして、本件発明は昭和三四年四月九日特許すべき旨の査定があり、同年五月一四日特許第二五二〇一九号として特許原簿に登録された。

(二) ところで、本件特許の実施権許諾は後記の特殊な経緯、事情のもとに締結されたものであるから、被告は原告に対して何人にも対抗しうる実施権を許諾したものであり、右許諾は当然に登録義務の約旨を含むものである。

すなわち、原告は本件特許発明が原告が既に右出願前の昭和二八年一一月ごろから後記三の(二)のとおり横浜市外二ヶ所において実施していた工法(別紙目録(二)記載のとおり)と技術思想及び実施形態において全く同一であるところから、その特許出願公告に対し新規性なきものとして、昭和三三年八月一一日特許庁に対し特許異議の申立をなし、該異議手続の進行中、被告は証拠調の直前に至つて原告に対し右異議申立の取下を懇請し、その代り右特許発明の実施権を許諾する旨申入れて来たので、原告はこれを受入れ、その結果、昭和三四年三月二八日原・被告間で本件発明を相互に独占的に実施する旨の示談が成立し、被告は原告が異議申立を取下げることを条件に原告のため本件特許発明の実施権を許諾し、原告は前記異議の申立を取下げ、かくて原告は本件特許発明を無条件的に実施するに至つた。

以上のように、本件実施権は、既に登録された特許権者が任意にその特許発明の実施を許諾する通常の場合と異なり、異議手続という特殊の事情のもとで、被告が本件特許出願の拒絶査定という危険を認証するに至つて已むを得ずかつ被告の積極的懇請により設定されたものであり、且つ通常の実施権許諾に際してなされうるところの時間的、地域的、内容的等の一切の制限なき全く無条件、かつ全面的の実施の許諾であるから、かかる場合は登録義務につき何ら明示の取極めをしなかつたとしても、特に反対の意思表示がない限り黙示に登録義務の約旨がなされたものと云うべきである。

(三) 被告は原告に対し、昭和三九年九月四日前記実施権設定契約を解除する旨の意思表示をなした。右解除は何ら正当な理由に基くものではないが、本件実施権の存否につき争いがあるので、これが確認を求める。

三、(先使用による通常実施権)

原告は、本件特許権について先使用による通常実施権を有する。

(一) 従来の管埋設工法は、地中に埋設するヒユーム管を後方から推進工具であるジヤツキの圧力で全延長を推進するため、管自体の大小・強度や施行場所の地質等の関係からジヤツキの推進能力に限界があり、埋設する管の延長がジヤツキの推進能力限界距離以上に及ぶときは管の推進が著しく困難であつた。そこで原告は別紙目録(二)及び図面に記載するように埋設するヒユーム管をジヤツキの推進能力限界範囲内で段階的に分割推進する工法(中押工法)を発明し直ちにこれを実施した。

(二) 原告はこの発明に基いて、昭和二八年一一月二〇日から横浜市鶴見区市場町尻手地内において川崎市水道部第四期水道拡張配水管布設国道第一号横断工事を、昭和二九年五月新鶴見操車場構内において東京鉄道管理局水道管防護管埋設工事を、昭和三〇年二月東京鉄道管理局中央線西荻窪駅―吉祥寺駅間において下水管埋設工事をそれぞれ施行した。

(三) しかして原告の発明にかかる中押工法は、本件特許公報の特許請求の範囲に記載された墜道管押抜工法と全く同一である。

(四) 以上のように、原告は本件特許の出願の日である昭和三一年六月三〇日当時、善意で、日本国内において、本件特許発明にかかる墜道管押抜工法の実施である事業をしていたものであるから、原告は本件特許につき先使用による法定の通常実施権を有する。

(五) しかるに、被告は原告が右先使用権を有することを争うので、これが確認を求める。

(被告)

(請求原因事実に対する認否)

一、第一項及び第二項の(一)の事実は認める。

二、第二項の(二)のうち、原告が本件特許公告に対し昭和三三年八月一一日に異議申立をなし、その後これを取下げたことは認めるが、その余の事実は争う。

三、第二項の(三)のうち、被告が原告に対し本件実施権の許諾を取消し、昭和三九年九月四日本件特許の実施権設定契約を解除したことは認めるが、その余の事実は争う。

四、第三項の事実はすべて争う。

(主張)

一、本件実施権の許諾については契約締結の際、契約条件として、被告が代表者で且つ特許権が付与された場合その実施権を有する立場となる前記南野建設株式会社が得意先よりの受註その他の営業活動をなすについて、原告がこれを妨害しないことを約束せしめ、原告が右妨害をなしたときは即刻右実施権設定を解除する旨原・被告間で取極められていたものである。

しかるに昭和三九年九月右南野建設株式会社が訴外大日本土木株式会社より京都市下水部の中部排水区堀川系統今出川公共下水工事を受註することになり、原告もこれに同意し右工事請負契約が同社と南野建設株式会社間で締結されることに協力することを約しながら、右約旨を破り原告自ら右工事を請負い、南野建設株式会社を右工事より排除する挙に出たので、被告は原告に対し本件実施権設定契約を解除したものである。

二、通常実施権は特許権者に対し特許発明の使用を請求する債権的な権利に過ぎず、その登録も効力要件ではなく対抗要件であるから、特約のない限り、通常実施権の許諾により特許権者が当然に登録義務を負担するものではない。そして本件において右登録に関する特約はないから、右登録請求も失当である。

第三、証拠関係(省略)

別紙(一)

被告の特許工法

「墜道管を直列に推進する工具の推進能力限界長さ毎に墜道管の後端に案内管と推進工具とを附加装設し、直列墜道管を限界推進単位長に分割しつゝ推進単位毎に装接した推進工具を前方に位置するものより順次操作して推進単位毎の墜道管を所定距離直進させ、所定距離直進後、推進工具を前方に位置するものより順次取り除き、各推進単位の前後端に位置する墜道管を順次接着して全管を直列に接続して埋設する事を特徴」とする墜道管押抜工法である。

別紙(二)

中押工法

原告の中押工法とは、直列するヒユーム管を段階的に分割推進する工法であつて、ジヤツキの推進能力限界範囲内で、推進単位毎に前方管と後方管とに分割し、前方管の後端外周に「継手金物」を接続してその中にジヤツキを装着し、更に後方管を右の「継手金物」に挿入したうえ装着したジヤツキを作動させて前方管を推進し、次いで終端のジヤツキにより後方管を推進せしめ、この作業を反復することによつて埋設する全延長を前・後方管を交互に推進する工法である。

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